イーロン・マスクのすすめ

最高の男、イーロン・マスクについてのブログ

イーロン・マスクが第三次世界大戦を心配する理由

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イーロン・マスクはGQのインタビューで「私たちは第三次世界大戦が発生する可能性があることを認識する必要があります。そして、もし第三次世界大戦が発生したなら、これはもう過去に起きたどんなことより悪い。」と述べ、第三次世界大戦についての懸念を表明しました。
さらに「たとえば核爆弾が使用されたとしましょう。きっとアンチテクノロジーへ向けた強力な社会運動が起こるでしょう。」と語りました。
 
第三次世界大戦というより、それによってテクノロジーの発展が遅れることをイーロン・マスクは気にしているようですね。インタビューの文脈的に、ここで言うテクノロジーとは火星への入植のためのテクノロジーのようです。つまり、彼が心配しているのは第三次世界大戦によって火星への入植が遅れることです。
 
イーロン・マスクが設立したスペースX社は安価な再使用可能ロケットを用いて火星へ大勢の人々を送り込むことを目的としています。つまり火星への入植を目指しているわけです。これは火星に自立した文明を築き、人類を多惑星にまたがる種にするためです。そのためにイーロン・マスクはスペースXに莫大な私財を投じて全力を尽くしているのです。
 
では、なぜイーロン・マスクはここまで火星への入植を望むのでしょうか。
 
ヒントは今回のインタビューのなかにあります。火星への入植の必要性について、イーロン・マスクは「あなたはHD(ハード・ドライブ)のバックアップをとりますよね」、「であれば、人類のバックアップもとるべきではないでしょうか?」と表現していました。
 
いきなりHDの話が出てきて戸惑うかもしれません。彼が何を言っているのか理解するのにおすすめの記事があるのでそこから引用してみたいと思います。事前に以下の2つの前提を頭に入れておいてください。
 
1) 記事は2015年8月に書かれたもの
2) 多細胞生物が現れたエディアカラン以降(約5億4200万年前以降)、現在までに生物の「大量絶滅」は5回発生している(※)
(※詳細が気になる方はWikipediaをご覧ください)
 
よろしいでしょうか?
では、以上の前提を踏まえてこちらの引用をご覧ください。
 
地球をHD(ハード・ドライブ)だと想像してみましょう。そして、私たちを含めた地球上の生物がExcelファイルです。このExcelファイルは膨大な情報をもつHD上に存在しています。ではここで私たちの時間感覚にあわせて5000年を一ヶ月に縮めて(地球の歴史を振り返って)みましょう。
 
・現在は2015年8月です。
 
・HD(地球)は7年6ヶ月前に誕生しました。2008年のはじめです。
 
1年前の2014年8月にHD上にExcelファイルが作成されました(動物の誕生)。それから新しいExcelファイルが作成され続け、あるものはエラーを出して開かなくなりました(絶滅)。
 
2014年8月から、HDは5回クラッシュしています(大量絶滅)。2014年11月と12月、2015年3月と4月、そして6月。HDはクラッシュしてから数時間後に再起動しましたが、再起動後は約70%のExcelファイルが失われていました。2015年3月のクラッシュを除いて、95%ものドキュメントが削除されていたのです。
 
・現在は2015年8月半ば。「人類」というExcelファイルが作成されたのは約2時間前のことです。
 
さぁ、あなたがとても重要なExcelファイルの入ったHDを所持していたとしましょう。そして、あなたはそのHDが高確率で1ヶ月か2ヶ月に一度クラッシュすることを知っています。前回のクラッシュは5週間前に発生しました。あなたが何をすべきか明らかですよね?
 
いかがでしょう。「あなたが何をすべきか」の答えはもちろん「別のHDにExcelファイルのバックアップをとる」です。
「別のHD」とは火星のことで、「Excelファイルのバックアップをとる」は人類の入植を意味します。地球で大量絶滅が起きたとしても、火星に自立した文明が存在すれば人類滅亡は回避できます。
 
地球はクラッシュしやすいHDです。大切なドキュメントを保存しておくためには、一刻も早く別なHDにバックアップをとることが必要。これは誰が考えても納得できます。
つまり、火星への入植は人類という種の保存のためにきわめて重要だということです。そして、実現は早ければ早いほど良い。次のHDのクラッシュがいつ起こるかわからないのです。
 
そこでイーロン・マスクはこのバックアップ作業を最速でおこなっているわけです。いかなる理由であれ作業の遅延は許されない。そんな彼にとって(もちろん人類にとっても)第三次世界大戦は大きなリスクだということですね。
 
過去の大量絶滅を振り返ると人類がとても脆い存在だということがわかります。だから、イーロン・マスクは人類存続のためにやるべきことをやっている。HDの例をもちだし、火星入植の遅延を引き起こす第三次世界大戦を懸念するイーロン・マスクの気持ちが理解できる気がしますが、いかがでしょう。
 
 

参考

www.nbcnews.com

waitbutwhy.com

イーロン・マスクが語る地球温暖化 ~炭素税の導入~

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パリで国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)が開催される中、イーロン・マスクはソルボンヌで学生たちに地球温暖化についての彼の考えを語りました。
イーロン・マスクが話した内容をできるだけ簡潔に問題・原因・対策・行動に分けてご紹介します。
 
 

問題

イーロン・マスクによると、地球温暖化最悪の場合、過去の戦争すべてを合わせたよりも大きな被害を人類にもたらすそうです。
 
なぜなら、(このまま何もしなければ)5~10%の陸地が水没するから。少ない面積のように聞こえるかもしれませんが、人類の3分の1(20億人以上)は低地か海岸線から60マイル(訳96キロ)圏内に住んでいるのです。
つまり地球温暖化によって20億人が避難しなければならず、彼らの住宅が破壊され、国土がなくなるということです。
 
どう考えても大問題ですね。
 
 

原因

皆さんご存知の通り、地球温暖化の原因はCO2つまり炭素排出です。炭素が排出されて大気中の温室効果ガスの濃度が増し、地球が温暖化するわけです。このあたり懐疑的な見方も存在するようなので気になる方はこちらをご覧ください。
 
(注:ここからが今回のポイントですが、あくまでイーロン・マスクが語ることなので世界的な話です。日本にそのまま適用できるとは限りません。)
 
さて、現在、地球温暖化の原因である炭素排出には隠れた補助が存在します。簡単に言うと、炭素排出によって与えられるダメージ(健康被害など)が化石燃料などの製品価格に反映されていないということです。
たとえばタバコやアルコールは野菜や果物よりも高い税金がかかっていますね。これはタバコやアルコールによる健康被害をその製品価格へ反映させるためという側面があります。
ところが人々に甚大な被害を与える炭素排出にはそのような税金がありません。
 
この課せられていない税が炭素排出の隠れた補助となっています。そして、IMFによると補助の額はなんと年間約650兆円だそうです。詳しくはこちらをご覧ください。
 
太陽光、風力、地熱などの再生可能エネルギーの技術的進歩が遅いのはこのような膨大な額の炭素排出の隠れた補助が原因だとイーロン・マスクは主張します。
 
見方を変えれば、政府がつくっている現在のルールは人々に炭素排出を推奨しているとも言えるのです。このように炭素排出を奨励しているような状況が地球温暖化の原因だということですね。
 
 

対策

地球温暖化の原因である炭素排出を奨励している状況を変える。これが地球温暖化の対策です。そこでイーロン・マスクが提案した地球温暖化対策は炭素税の導入でした。
 
イーロン・マスクは政府が率先して地球温暖化対策への取り組むべきだと主張します。それは政府がルールを定め、企業はそのルールに従って企業活動をおこなうからです。
 
そして、現在炭素排出には課せられるべき税が課せれていない。であれば、あとは単純な話です。炭素税を導入する。(もちろんレベニューニュートラルにするため他の減税処置は必要です)
企業活動が変わり、社会が変わり、地球温暖化の原因となっている状況が変わるのです。
 
 

行動

地球温暖化対策が炭素税の導入。そのためには政治を動かさなければいけません。ところが、イーロン・マスクによるとロビー活動では石油資本に絶対に勝てないそうです。
たとえばスーパーメジャー(超大手石油会社)の1つであるエクソンモービルだけでもアメリカの太陽光産業すべてを合わせたよりも多くの利益をあげます。なので、資金で勝負するのは不可能とのこと。
 
そこで、イーロン・マスクは学生たちに「君たちは変化を起こす力を持っている」ので、政治家や友人などに「機会があるたびに炭素税の導入について話す」よう語りました。政治家は人々の意見を無視することはできません。地道な行動ですが、イーロン・マスクが提案したのは炭素税導入について声を大きくしていくことでした。
 
 
今回の件についてイーロン・マスクが以下のようにツイートしていたので気になる方はリンク先の記事をご覧になってください。動画も貼っておきます。
 
気候変動についてパリで語ったことが良くまとめられている。

 

www.youtube.com

 

 

参考

イーロン・マスクが自動運転タクシー事業で狙っていること

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Uberを運営するウーバー・テクノロジーズのCEOトラビス・カラニックは、もし2020年までにテスラが50万台の自動車を生産できたなら、そのすべての自動車を購入すると言いました。テスラ車が自動運転になっていることがその条件のようですが、ものすごい宣言ですよね。

 

Uberは簡単に言うとタクシーを手配してくれるアプリです。なので、現在の有人タクシーに代わり無人タクシー(自動運転タクシー)を配車できるようになればUberにとって非常に大きなメリットがあるわけです。

 

そして、自動運転へ邁進しているのがイーロン・マスク率いるテスラ。最近、イーロン・マスクTwitterで自動運転のためのソフトウェアエンジニアを募集するツイートで世間を騒がせました。

 

全自動運転を普及させるため、テスラの自動運転ソフトウェアチームを増やす。興味があるならここへ。autopilot@teslamotors.com

 

筋金入りのソフトウェアエンジニアを探している。自動車(業界)での経験は不要。コードのサンプルか過去に作ったもののリンクを記載のうえ(連絡を)。

 

言っておかなければならないが、私が個人的に面接をするし自動運転のレポートを直接見せてほしい。これは超ハイプライオリティーなんだ。

 

ということで、自動運転車を望むトラビス・カラニックがテスラに言及するのもうなずけます。


 

テスラの戦略における自動運転タクシーの意味

さて、じつはテスラがUberのような配車サービスへ進出するのではないかという噂があります。イーロン・マスクは明言を避けていますが、テスラの目的を考えるとあり得る話だと思うんですよね。

 

テスラの目的は電気自動車を普及させて持続可能な交通機関の到来を早めること(accelerate the advent of sustainable transport)です。 

しかし、このままだと電気自動車が普及した社会の到来はずいぶん先になりそう。地球上に存在するガソリン車はおよそ20億台で、毎年1億台の新車が生産されています。仮にテスラ電気自動車を年間50万台生産したとしても、生産量は全体の0.5%しかありません。これだと地球上のすべての自動車を電気自動車へ変えるにはどんなに早くても20年以上はかかる計算になります。

 

問題はこの「20年以上」をいかに短縮するかですね。

 

まず最初にみなさんが所有している自動車について考えてみましょう。自動車は非常に高価な製品です。ローンを組んで買う人も多いでしょう。でも、じつはせっかく自動車を購入しても実際は4%しか稼働していない状態だそうです。たしかに一日のうちそんなに自動車に乗る機会はないですよね。通勤で長くて1,2時間。あとは休日に遠出するときや買い物のときくらいでしょうか。平均すると1日24時間中1時間ほどになるんでしょう。

 

もし自動運転機能を搭載したタクシーをUberのようなサービスでいつでもどこでも安価に呼び出せるのであれば、人々が高いお金を払って自動車を所有する意味はなくなっていくはずです。よほどの車好き以外、自動車は使うためにあり、所有自体が目的ではないからです。ちなみに、Googleによれば自動運転タクシーの稼働率は75%以上になるだろうと予測されています。4%しか稼働していない現在の自動車と比べれば圧倒的な稼働率です。

 

そうなれば同じ人数を運ぶのに必要な自動車の台数が減らせることになります。自動運転タクシー普及の大事なポイントはここです。

 

Googleの自動運転プロジェクトの前リーダーであり現在はスタンフォード大学のコンピューターサイエンティストのSebastian Thrunによると、自動運転タクシーが普及すればいまの約30%の自動車台数で事足りるようになるとのことです。

また、リスボンで自動運転車をモデリングしたOECDの研究では、タクシボット(空港内で利用される電気自動運転車)のシェアによってじつに80〜90%の自動車を減らせるそうです。さらに、ユタ大学のDan Fagnantはオースティンとテキサスのトラフィックデータを用いて、1台の自動運転タクシーの利用が現在の10台の自動車相当の働きをするいう研究結果を出しています。

 

要するに、自動運転タクシーが普及すれば地球上の自動車総数を劇的に減らせるということです。

 

すべての自動車を電気自動車へ変えるには20年以上かかる。その理由は単純に生産される自動車全体のうち電気自動車生産の割合が小さかったからです。

 

では自動車全体の数が減少すればどうなるでしょう。

 

ウーバー・テクノロジーズCEOのトラビス・カラニックがその態度で示した通り、自動運転機能を備えた未来の自動車はテスラのような電気自動車です。

つまり、自動車総数の減少とともにガソリン車の需要が下がり、電気自動車の占める割合は大きくなる。

 

このように、自動運転タクシーの普及によって自動車総数(分母の数)を減らすことで、テスラの目的である電気自動車社会の到来を早めることが可能という理屈になります。

 

こう考えると、テスラが自動運転タクシー事業に乗り出すかもしれないという話も納得できると思いませんか。

テスラがやるかどうかは別にしても、自動運転タクシーの普及はテスラの戦略に組み込まれているはずです。狙いはもちろんテスラの目的を達成するため。うまい戦略だと思いますがいかがでしょう。

 

 

参考

worldif.economist.com

www.computerworld.com

elongeek.hatenablog.com

ブルー・オリジンのニュー・シェパードが垂直着陸に成功 ~ファルコン9との違い~

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AmazonのCEOでジェフ・ベゾスが設立したブルー・オリジンが単段式ロケットであるニュー・シェパードの打ち上げに成功しました。

ニュー・シェパードは目標の高度100kmまで無事に到達。高度100kmはカーマン・ラインと呼ばれ、国際航空連盟によってこのラインを超えると宇宙空間だと定められています。

 

民間企業が宇宙へ到達したのはすごいことですが、注目すべきはその後。ニュー・シェパードはそのまま降下して逆噴射で垂直着陸をおこなってみせたのです。

これはイーロン・マスクのスペースXがずっと目指してきた能力で、イーロン・マスクTwitterでブルー・オリジンへ賛辞を送りました。
 
ジェフ・ベゾスとブルー・オリジンチーム、君たちのブースターによる垂直離着陸の達成をお祝いするよ。

 
ジェフ・ベゾスもニュー・シェパードの打ち上げ成功をツイートしています。じつはこれは彼がおこなった最初のツイート。ツイートしないことで有名なジェフ・ベゾスですから、よほど嬉しかったのでしょうね。
 
さて、ブルー・オリジンの成功を賞賛したイーロン・マスクですが、スペースXの先を越されたとは思っていない様子です。ブルー・オリジンの成功にたいするイーロン・マスクのコメントを紹介していきましょう。
 
 

宇宙空間からの垂直着陸に前例はある

2013年に開始したスペースXのサブオービタル垂直離着陸フライトにジェフはおそらく気づいていない。2014年のオービタル水上着陸。それに次はオービタル陸上着陸だ。

 

イーロン・マスクによると、スペースXはグラスホッパーという試験用ロケットで3年前にすでに準軌道飛行(サブオービタルフライト)からの垂直着陸を成功させているとのこと。
そして、彼は過去に宇宙空間からの帰還を成し遂げたX-15という航空機やスペースシップワンの存在を指摘し、ニュー・シェパードは決してきわめて特殊(rarest)な事例などではないと言います。
 
最初の再使用サブオービタルロケットの功績はX-15(※1)へ。そして、民間ではバート・ルータン(※2)へ。

 

※1)X-15はジェットエンジンではなくロケットエンジンで上昇できるロケットプレーン(航空機)です。1963年にニュー・シェパードよりも約7km高い高度を飛行して滑走路に着陸しました。
 
※2)バート・ルータンスペースシップワンを設計した人物。スペースシップワンはスケールド・コンポジッツ社によって開発された宇宙船です。2004年に高度約100kmのサブオービタルフライトを成功させています。しかも有人でのフライトだったので、世界ではじめて民間企業による有人宇宙飛行となりました。
 
このように、ブルー・オリジンが成功させたサブオービタルフライトからの着陸は先行事例があります。が、それにしても逆噴射による垂直着陸はすごい。
ただし、着陸に続けて失敗しているスペースXのファルコン9と今回着陸に成功したブルー・オリジンのニュー・シェパードを単純に比較できません。この2つのロケットはゴールに違いがあるからです。
 
 

ファルコン9とニュー・シェパードの目的の違い

「宇宙」と「軌道」の違いをはっきりさせることが重要だ。ここにうまく表現されている。

 

イーロン・マスクの言う「宇宙」と「軌道」の違いとは何でしょうか。それはファルコン9とニュー・シェパードの目的の違いを見れば理解できます。

 
ファルコン9の目的ペイロード(将来的には宇宙飛行士)を低軌道上のISS国際宇宙ステーション)へ届ける
 
ニュー・シェパードの目的:民間人の宇宙飛行をおこなう
 
ファルコン9が目指すのはISSです。ISSの高度は約400km。一方、ニュー・シェパードが目指すのは宇宙空間です。宇宙空間は高度100kmを超えればOKです。 
ただし、ファルコン9で垂直着陸をおこなうのはファーストステージです。そして、このファーストステージの切り離しはニュー・シェパードとほぼ同じ高度。
比較すべきはファルコン9のファーストステージとニュー・シェパードです。なので、ゴールとなる高度が違っても切り離しの高度が同じなら一見すると高度差はゼロのように思えますね。
 
ところが、ゴールとなる高度の差が「宇宙」と「軌道」の違いというわけではないのです。
 
じつは、その違いはロケットの速度。ファルコン9の速度はマッハ10。対してニュー・シェパードはマッハ3.7なのです。
 
ファルコン9が目指すISSは低軌道上をぐるぐる回っていて地表には落ちてきません。ISSにかかっている地球の重力は地表とそれほど変わらない(約90%)のに地表に落下しない理由はただ1つ。ISSがものすごい速度で地球の周りを回っているからです。その速度はなんと秒速8km。これは地球を90分で一周するスピードです。銃弾の速度(砲口初速)は拳銃の場合秒速340m以下なので、ISSの周回速度がいかに速いかわかると思います。
 
このように低軌道上を超高速で移動しているISSペイロードを届けるミッションをおこなうのがファルコン9。だからロケットにも速度が求められるわけですね。一方、ニュー・シェパードのミッションは有人宇宙飛行なので宇宙空間に到達すればいい。ファルコン9よりも遅くていいのです。
 
そして、このロケット速度の差はそのまま降下距離の差にもつながります。切り離しの高度が同じでも、より高速で移動しているファルコン9のファーストステージは切り離し後も長く上昇を続けます。つまり、ファルコン9のファーストステージの降下距離はニュー・シェパードよりも長くなるというわけです。
 
つまり、ゴールが「宇宙」か「軌道」かで垂直着陸の難易度が変わってくるということです。
 簡単に言ってしまえば、ファルコン9の着陸のほうが難しいんですね。これがイーロン・マスクが言っている「宇宙」と「軌道」の違いです。
 
 

まとめ 

イーロン・マスクのコメントを紹介しているとブルー・オリジンが大したことないみたいに聞こえてきますがそんなことはありません。ブルー・オリジンは本当にすごいと思います。それにニュー・シェパードはかっこいいんですよね。こちらに今回の打ち上げの動画を貼っておくのでぜひご覧になってください。
 


Historic Rocket Landing - YouTube

 

今回のブルー・オリジンの成功でイーロン・マスクも刺激を受けたのではないでしょうか。

スペースXの打ち上げ失敗から数ヶ月。そろそろファルコン9の打ち上げが再開されるようなので楽しみですね。

 
 

参考

なぜイーロン・マスクは科学者ではなくエンジニアになったのか

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イーロン・マスクがスペースXをスタートしたとき周りの人間は猛烈に反対したそうです。いくらお金持ちでも今までロケット事業で成功した者はいない。宇宙事業は政府がするものだ。しかし、イーロン・マスクはロケット素材の市場価格から計算し、事業の見通しを立て、周りの反対意見を振りきってスペースXを設立しました。

イーロン・マスクはこの意志決定を「第一原理」(First Principles)から導き出したと言います。そして、じつはこの「第一原理」から思考をスタートするやり方は非常に科学者的だと言えるのです。

「親がそう言ったから」、「先生がそう言ったから」、「評論家がそう言ったから」、「成功者がそう言ったから」のような「◯◯がそう言ったから」という態度で物事を眺めるのではなく、観測した(物理学的明確さをもった)結果からロジカルに考える思考。これが「第一原理」から考えるということで、そこに他人の意見が入り込む余地はほとんどありません。

もし科学者が「◯◯がそう言ったから」的態度だったとしたら、いまでも地球は平らなままかも知れませんし、地球の歴史は6000年のままだったかもしれません。観測結果(データ)をもとにロジカルに考えた結果が社会通念と異なっていたとき、社会通念ではなく持論を選択するのが科学者的態度です。そして、これこそまさにイーロン・マスクの言う「第一原理」から考えるということ。
 
つまり、イーロン・マスクは科学者的態度のエンジニア(兼実業家)だということです。
 
では、ここまで科学者的態度を貫くイーロン・マスクはなぜ科学者ではなくエンジニアになったのでしょうか。幼いころから人類の文明の発展に貢献したいと考えていたイーロン・マスクです。偉大な科学的発見が文明を推し進めてきたことは疑いようのない事実。それなら自然と科学者を目指すはずではないかと思ってしまいます。
 
この問いにたいしてイーロン・マスクはこう語ります。
物理学を自分のキャリアにしようと考えていた時期がありました。物理学を専攻していたのです。しかし、昨今の物理学の発展はデータを必要とします。物理学は根本的にエンジニアリングの発展に支配されている。この議論-エンジニアと科学者どちらが優れているか?科学者が優れている?アインシュタインはもっとも優れた人だった?-は、個人的には、エンジニアのほうが優れていると思います。なぜならエンジニアリングがなければデータが得られないからです。(科学は)限界を迎えてしまう。もちろん限られたデータのなかで優秀になることはできますが、それ以上のデータを取得する手段がない限り進展はありません。ガリレオがいい例です。彼は望遠鏡を設計しました。これによって木星に衛星があることを突き止めたのです。言うなれば、(科学の)限定因子はエンジニアリング。文明の発展を望むなら、限定因子への対応が求められます。したがって、エンジニアリングに取り組むべきなのです。
 
つまり、今回のテーマ「なぜイーロン・マスクは科学者ではなくエンジニアになったのか」にたいするイーロン・マスクの答えは:
 
エンジニアリングと科学どちらも素晴らしいが、エンジニアリングがなければ科学はない。なので、エンジニアリングを選んだ。

エンジニアリングと科学どちらも素晴らしいが、科学はエンジニアリングがあってはじめて発展する。なので、エンジニアリングを選んだ。
 
いかがでしょうか。色んな意見はあると思いますが、イーロン・マスクらしい非常に合理的な選択だと思いませんか。

 

参考