自動運転車を自作したハッカーの記事にイーロン・マスクとテスラが反論
Bloombergの「世界で初めてiPhoneをハックした人物が自動運転車を開発した」という記事にたいしてテスラがブログで反論し、イーロン・マスクがそれをツイートしました。
バンスの自動運転車に関する記事は正確じゃない。
Vance article on self-driving cars was inaccurate https://t.co/AV636KAcKH
— Elon Musk (@elonmusk) December 17, 2015
記事はこちらです。
日本語で紹介されたのはこちら。
ちなみに、この記事は今年「イーロン・マスク 未来を創る男」というイーロン・マスクの伝記本を書いたアシュリー・バンスによるものです。
記事は簡単に言うと天才プログラマーであるジョージ・ホッツが一ヶ月で市販車を改造して自動運転車を開発したという内容です。
ただ、イーロン・マスクとホッツの関係性や、テスラが自動運転システムに使っているMobilEyeよりもすごいシステムをホッツが開発する予定であることなど、イーロン・マスクとテスラ関連の話が多く取り上げられています。
で、その記事への訂正と題して、イーロン・マスクとテスラがブログで反論したというわけです。
テスラのブログによると、ホッツと彼が開発した自動運転技術について「しっかりとした広範なエンジニアリングの能力を欠いた個人や小さな会社が、量産車に搭載できるほどの自動運転システムを提供できる可能性はきわめて低いと考えている。」とのこと。
さらに、「既知の一本道で限定されたデモをおこなうくらいであれば可能かもしれない−テスラはすでにそのようなシステムを2年前に開発している−が、まったく違う道路を何百万マイルとデバッグするためには膨大なリソースが必要となる。」と述べています。
そして、「これが自動化の本当の問題」と前置きしたうえで、「機械学習のシステムを99%正しく動作させるのは比較的簡単だ。しかし、これを99.9999%にするのは圧倒的に難しい。」と、量産車に適用するには、ホッツの開発レベルが基準に達していないことを示しました。この基準が求めれる理由は、70マイル(約110キロ)で移動中ではわずかなミスが命取りになるからだそうです。
イーロン・マスクとテスラがとくに反論したいのはテスラの自動運転システムの外注について。「はっきりさせないといけないのは、テスラの自動運転システムは設計も開発も内製であるということだ。ただ単に外注の技術をパックし直すだけであれば、私たちは量産車における革新的な経験を提供できる(現在のような)ユニークな立場にはいないだろう。」と述べています。
ただし、部品として優れているかぎり、「MobilEyeの視覚チップのようなもっとも進んだ部品技術は使い続けるつもりだ。」とのこと。
アシュリー・バンスの本の内容にも反論のツイートをしていたイーロン・マスクです。今回も反論すべきと感じたら躊躇なく反論する。イーロン・マスクらしい行動ですね。
イーロン・マスクが第三次世界大戦を心配する理由
地球をHD(ハード・ドライブ)だと想像してみましょう。そして、私たちを含めた地球上の生物がExcelファイルです。このExcelファイルは膨大な情報をもつHD上に存在しています。ではここで私たちの時間感覚にあわせて5000年を一ヶ月に縮めて(地球の歴史を振り返って)みましょう。・現在は2015年8月です。・HD(地球)は7年6ヶ月前に誕生しました。2008年のはじめです。・2014年8月から、HDは5回クラッシュしています(大量絶滅)。2014年11月と12月、2015年3月と4月、そして6月。HDはクラッシュしてから数時間後に再起動しましたが、再起動後は約70%のExcelファイルが失われていました。2015年3月のクラッシュを除いて、95%ものドキュメントが削除されていたのです。・現在は2015年8月半ば。「人類」というExcelファイルが作成されたのは約2時間前のことです。さぁ、あなたがとても重要なExcelファイルの入ったHDを所持していたとしましょう。そして、あなたはそのHDが高確率で1ヶ月か2ヶ月に一度クラッシュすることを知っています。前回のクラッシュは5週間前に発生しました。あなたが何をすべきか明らかですよね?
参考
イーロン・マスクが語る地球温暖化 ~炭素税の導入~
問題
原因
対策
行動
Good summary of my talk in Paris on climate change https://t.co/n27JiXUsW9
— Elon Musk (@elonmusk) 2015, 12月 3
参考
イーロン・マスクが自動運転タクシー事業で狙っていること
Uberを運営するウーバー・テクノロジーズのCEOトラビス・カラニックは、もし2020年までにテスラが50万台の自動車を生産できたなら、そのすべての自動車を購入すると言いました。テスラ車が自動運転になっていることがその条件のようですが、ものすごい宣言ですよね。
Uberは簡単に言うとタクシーを手配してくれるアプリです。なので、現在の有人タクシーに代わり無人タクシー(自動運転タクシー)を配車できるようになればUberにとって非常に大きなメリットがあるわけです。
そして、自動運転へ邁進しているのがイーロン・マスク率いるテスラ。最近、イーロン・マスクはTwitterで自動運転のためのソフトウェアエンジニアを募集するツイートで世間を騒がせました。
全自動運転を普及させるため、テスラの自動運転ソフトウェアチームを増やす。興味があるならここへ。autopilot@teslamotors.com
Ramping up the Autopilot software team at Tesla to achieve generalized full autonomy. If interested, contact autopilot@teslamotors.com.
— Elon Musk (@elonmusk) 2015, 11月 20
筋金入りのソフトウェアエンジニアを探している。自動車(業界)での経験は不要。コードのサンプルか過去に作ったもののリンクを記載のうえ(連絡を)。
We are looking for hardcore software engineers. No prior experience with cars required. Please include code sample or link to your work.
— Elon Musk (@elonmusk) 2015, 11月 20
言っておかなければならないが、私が個人的に面接をするし自動運転のレポートを直接見せてほしい。これは超ハイプライオリティーなんだ。
Should mention that I will be interviewing people personally and Autopilot reports directly to me. This is a super high priority.
— Elon Musk (@elonmusk) 2015, 11月 20
ということで、自動運転車を望むトラビス・カラニックがテスラに言及するのもうなずけます。
テスラの戦略における自動運転タクシーの意味
さて、じつはテスラがUberのような配車サービスへ進出するのではないかという噂があります。イーロン・マスクは明言を避けていますが、テスラの目的を考えるとあり得る話だと思うんですよね。
テスラの目的は電気自動車を普及させて持続可能な交通機関の到来を早めること(accelerate the advent of sustainable transport)です。
しかし、このままだと電気自動車が普及した社会の到来はずいぶん先になりそう。地球上に存在するガソリン車はおよそ20億台で、毎年1億台の新車が生産されています。仮にテスラが電気自動車を年間50万台生産したとしても、生産量は全体の0.5%しかありません。これだと地球上のすべての自動車を電気自動車へ変えるにはどんなに早くても20年以上はかかる計算になります。
問題はこの「20年以上」をいかに短縮するかですね。
まず最初にみなさんが所有している自動車について考えてみましょう。自動車は非常に高価な製品です。ローンを組んで買う人も多いでしょう。でも、じつはせっかく自動車を購入しても実際は4%しか稼働していない状態だそうです。たしかに一日のうちそんなに自動車に乗る機会はないですよね。通勤で長くて1,2時間。あとは休日に遠出するときや買い物のときくらいでしょうか。平均すると1日24時間中1時間ほどになるんでしょう。
もし自動運転機能を搭載したタクシーをUberのようなサービスでいつでもどこでも安価に呼び出せるのであれば、人々が高いお金を払って自動車を所有する意味はなくなっていくはずです。よほどの車好き以外、自動車は使うためにあり、所有自体が目的ではないからです。ちなみに、Googleによれば自動運転タクシーの稼働率は75%以上になるだろうと予測されています。4%しか稼働していない現在の自動車と比べれば圧倒的な稼働率です。
そうなれば同じ人数を運ぶのに必要な自動車の台数が減らせることになります。自動運転タクシー普及の大事なポイントはここです。
Googleの自動運転プロジェクトの前リーダーであり現在はスタンフォード大学のコンピューターサイエンティストのSebastian Thrunによると、自動運転タクシーが普及すればいまの約30%の自動車台数で事足りるようになるとのことです。
また、リスボンで自動運転車をモデリングしたOECDの研究では、タクシボット(空港内で利用される電気自動運転車)のシェアによってじつに80〜90%の自動車を減らせるそうです。さらに、ユタ大学のDan Fagnantはオースティンとテキサスのトラフィックデータを用いて、1台の自動運転タクシーの利用が現在の10台の自動車相当の働きをするいう研究結果を出しています。
要するに、自動運転タクシーが普及すれば地球上の自動車総数を劇的に減らせるということです。
すべての自動車を電気自動車へ変えるには20年以上かかる。その理由は単純に生産される自動車全体のうち電気自動車生産の割合が小さかったからです。
では自動車全体の数が減少すればどうなるでしょう。
ウーバー・テクノロジーズCEOのトラビス・カラニックがその態度で示した通り、自動運転機能を備えた未来の自動車はテスラのような電気自動車です。
つまり、自動車総数の減少とともにガソリン車の需要が下がり、電気自動車の占める割合は大きくなる。
このように、自動運転タクシーの普及によって自動車総数(分母の数)を減らすことで、テスラの目的である電気自動車社会の到来を早めることが可能という理屈になります。
こう考えると、テスラが自動運転タクシー事業に乗り出すかもしれないという話も納得できると思いませんか。
テスラがやるかどうかは別にしても、自動運転タクシーの普及はテスラの戦略に組み込まれているはずです。狙いはもちろんテスラの目的を達成するため。うまい戦略だと思いますがいかがでしょう。
参考
ブルー・オリジンのニュー・シェパードが垂直着陸に成功 ~ファルコン9との違い~
AmazonのCEOでジェフ・ベゾスが設立したブルー・オリジンが単段式ロケットであるニュー・シェパードの打ち上げに成功しました。
ニュー・シェパードは目標の高度100kmまで無事に到達。高度100kmはカーマン・ラインと呼ばれ、国際航空連盟によってこのラインを超えると宇宙空間だと定められています。
民間企業が宇宙へ到達したのはすごいことですが、注目すべきはその後。ニュー・シェパードはそのまま降下して逆噴射で垂直着陸をおこなってみせたのです。
Congrats to Jeff Bezos and the BO team for achieving VTOL on their booster
— Elon Musk (@elonmusk) 2015, 11月 24
宇宙空間からの垂直着陸に前例はある
2013年に開始したスペースXのサブオービタル垂直離着陸フライトにジェフはおそらく気づいていない。2014年のオービタル水上着陸。それに次はオービタル陸上着陸だ。
Jeff maybe unaware SpaceX suborbital VTOL flight began 2013. Orbital water landing 2014. Orbital land landing next. https://t.co/S6WMRnEFY5
— Elon Musk (@elonmusk) 2015, 11月 24
But credit for 1st reusable suborbital rocket goes to X-15 https://t.co/LSb0f8FLJd And Burt Rutan for commercial https://t.co/TGWlNjsyQz
— Elon Musk (@elonmusk) 2015, 11月 24
ファルコン9とニュー・シェパードの目的の違い
It is, however, important to clear up the difference between "space" and "orbit", as described well by https://t.co/7PD42m37fZ
— Elon Musk (@elonmusk) 2015, 11月 24
イーロン・マスクの言う「宇宙」と「軌道」の違いとは何でしょうか。それはファルコン9とニュー・シェパードの目的の違いを見れば理解できます。
まとめ
Historic Rocket Landing - YouTube
今回のブルー・オリジンの成功でイーロン・マスクも刺激を受けたのではないでしょうか。
スペースXの打ち上げ失敗から数ヶ月。そろそろファルコン9の打ち上げが再開されるようなので楽しみですね。