イーロン・マスクのすすめ

最高の男、イーロン・マスクについてのブログ

世界一おもしろい電池の話

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 テクノロジーは魔法です。そして魔法を使うには魔力が必要で、魔力とは電気のことです。僕らは電気という魔力を使って、温風を発生させ髪を乾かしたり、冷気を発生させ食べ物を保存したり、物を瞬時に温めたり、持ち上げたり、動かしたり、壊したり、はるか遠いところにいる人々と会話をしたり、経験値の集合体とも言える情報をいつでも入手することができたりします。

 僕らにとって当たり前となっているこの世界は、大昔の人たちにとってみれば理解を超越した魔法に満ち溢れるファンタジーな世界そのものなのです。しかし、僕らはあまりにも魔力について何も知らない。一部の魔法に長けた魔導師たちが次々に新しい魔法を創りだしていますが、僕らはその恩恵にあずかるだけで魔法の原理を理解しようとはしません。これだけ魔法に依存した世界に住んでいるんです。せっかくなので魔法の原理を探ってみようではありませんか。とくに重要なのは魔法の使うために必要となる魔力。そして、魔力には源泉があります。魔力の源泉つまり電池のことです。ということで、今回は魔力の源である電池についてやっていきたいと思います。(ずいぶんドラマチックな言い方をしてしまいましたが、「電池について」と言うとちょっと地味すぎますし、いぜんのエントリーでゲームについてお話したのでその流れです)

 

 今回の記事のきっかけは人類史上最強の魔導師であるイーロン・マスクのこのつぶやき。

 

バッテリーのブレークスルーには電圧とエネルギー密度(同じものではない)、そして継続性も必要。エネルギーにおいてはいつもこれが難しい。

 

 最初見たときは何のことだろうと思いましたが、どうやらこちらのニュースに対してのつぶやきだったみたいです。

Charge Your Smartphone In One Minute: New Battery Technology Is Safe, Durable, Quick Charging And Sustainable

 

 ニュースを要約すると以下です。

スタンフォード大学が優れたアルミニウム電池の開発に成功

・現在主流のリチウムイオン電池に取って代わる存在になるかもしれない

・アルミニウム電池は電池として求められるすべての要素を兼ね揃えている

 

 で、イーロン・マスクはそんなに簡単なものじゃないよと指摘したってわけです。そこでイーロン・マスクが指摘していることの意味をしっかり理解するために、魔力の源泉たる電池についてやっていこうというのが今回の記事です。

 

魔力素子を使い魔力を生み出す仕組み

 様々な魔法を使うには魔力が必要ですが、この世界のゲーム設定では魔法自体にMP(使用回数や期限)が割り当てられています。たとえば魔法が携帯電話で、MPがその電池残量ってことです。MPはコンセントや充電器を使って回復させることができます。なので、電池を理解するということは、MPつまり魔力の源泉について理解するということになります。

 そこで、さっそく電池の説明をしていきましょう。MPについての説明ですね。これもゲーム設定があり、電池にはメイン素材(正極)とサブ素材(負極)の2種類の素材が使われます。そして、メイン素材に何を使うかによって電池の性能が大きく変わります。本当にゲームの設定のようですが、現実の話です。素材には魔力の素子である電子が宿っています。電池とはメイン素材とサブ素材の間で魔力素子の移動を発生させるメカニズムのことです。魔力素子の移動エネルギーが魔力の正体なのです。

 現在もっとも使用されているメイン素材はリチウム。サブ素材には炭素系の素材が用いられます。これがリチウムイオン電池と呼ばれる現代で主流となっている電池です。もちろん充電もできます。今でもメイン素材を探すクエストが世界中で盛んに行われていて、ご紹介した記事で取りあげられていたのがアルミニウムという素材です。ちょっとリチウム電池とアルミニウム電池のステータスを紹介しましょう。

 

リチウム電池のステータス

・電圧 高い

・使用回数 普通

・エネルギー密度 高い

 

アルミニウム電池のステータス

・電圧 低い

・使用回数 多い

・エネルギー密度 普通

 

 電圧は魔力の圧力、使用回数は回復回数、エネルギー密度は電池をどのくらいコンパクトにできるかという感じで捉えていただければ大丈夫です。アルミニウム電池はこの他に特殊能力(曲がるとか発火しないとか)を持ってますが、やはり電圧とエネルギー密度というパラメータは実用性に大きく影響しますので、まだリチウムイオン電池に軍配が上がります。これをイーロン・マスクが指摘していたわけです。

 ちなみにリチウムイオン電池を開発して基礎技術を固めたのは日本です。リチウムイオン電池発祥の地である日本ですが、リチウム素材は完全に輸入に頼っています。リチウムはアルミニウムに比べると入手難易度が高いのです。ここはアルミニウム素材が有利ですね。アルミニウムは入手難易度がものすごく低いのです。リチウムを採取するクエストに行きたいならチリ、オーストラリア、アルゼンチンがオススメです。その3国が圧倒的なシェアを持っています。

 

 最強の魔導師であるイーロン・マスクが創りだす魔法の1つにテスラモーターズ電気自動車があります。テスラモーターズ電気自動車はこのリチウムイオン電池を一台あたり約7000個もつなげてバッテリーパックにしています。ここではリチウムイオン電池のエネルギー密度の高さが存分に活かされています。ハイブリッド車にはニッケル水素 (NiMH) 電池がよく使われるのですが、ニッケル水素 (NiMH) 電池のバッテリーパックの重量は、テスラモーターズのバッテリーパックの2倍にもなります。もちろんリチウムイオン電池はサイズも小さい。エネルギー密度が高いということは、軽量で場所を取らないということなので、電気自動車のバッテリーとしては最適なんですね。

 そこでイーロン・マスクは現在のところ最高の魔力源となるリチウムイオン電池を大量生産する工場の建設を開始しました。その名もギガファクトリー。類を見ない規模(なんと6500人もの従業員を確保する予定だそうです)で大量のリチウムイオン電池を生産するため、最低でも30%は生産コストを下げることができるそうです。偉大な魔導師が魔力源を確保するのは当然ですね。ただ規模が桁違いなのでギガファクトリーが稼働し始めたら世界的な影響があることは間違いないでしょう。さすがイーロン・マスクと言ったところです。

 
 いかがでしょうか。メイン素材を探したり、メイン素材とサブ素材の組み合わせを考えたり、まるで本当にゲームのようだと思いませんか。電池をこうやって眺めてみるとけっこう楽しいと思います。さて、ここからは電池のさらに奥深いところをやりますので、興味のある方だけおつきあいください。魔法や魔力といった比喩はもうでてきませんので悪しからず。

 


電池の仕組み

電子

 電流とは電子の流れのことで、電流を利用して家電製品などを稼働させています。そこで、電子とは何かという話ですが、電子は原子を構成している非常に小さな物質です。世の中のほぼすべての物は以下のような構造をとっています。水を例に取りますね。

 

・水

・水分子(H2O)

・原子(HやO)

原子核(陽子と中性子)と電子

 

 つまり、すべての物質を細かく分解していくと陽子、中性子そして電子の組み合わせに行き着きつくということです。そして、陽子の数で物質の性質が決定されます。酸素原子になるのか水素原子になるのか、はたまた鉛原子になるのか金原子になるのか。これが陽子の数で決まります。

 陽子と中性子の結びつきは非常に強固です。古来より錬金術士たちは熱や光、衝撃(摩擦)を与えてなんとか陽子の数を変え、鉛から金への原子の性質変化を引き起こそうとしていました。安価な物質から高価な物質を生み出そうとしたわけですね。しかし、陽子と中性子の強力な結びつきを前にして錬金術士たちの野望はついに叶うことはありませんでした。このように陽子と中性子の結束力は強固で、簡単には移動させることはできません。ところが、電子は陽子と中性子に比べて結びつきが弱く、比較的容易に移動させることができます。それこそ熱や光、衝撃(摩擦)で電子の移動を引き起こすことができます。電子の移動を起こせるということは電流を流せるということ。人類は錬金術の代わりに電気を生み出す術を手に入れたというわけです。

 

共有結合とイオン結合

 さて、分子は複数の原子が結合して構成されているわけですが、原子同士の結合では電子が重要な役割を果たします。原子は陽子の数と同じだけ電子を持っていますが、これは原子が電気的なバランスを取ろうとするためです。陽子はプラスの電気的性質を、電子はマイナスの電気的性質を持っているのです。そして、原子同士は電子を共有することで電気的バランスを保つことができます。この電子の共有が原子同士を結びつけている一因なのです。これを共有結合と呼びます。

 さらに、もう1つ結合の形があって、お互いの原子が電子をアンバランスに持つことで結合するという形です。さきほども述べましたが、電子はマイナス、陽子はプラスという電気的性質を持っています。そして、マイナスとプラスは引き合います。磁石のN極とS極みたいなものです。片方の原子には電子が余っていて(マイナス)、片方の原子には電子が足りない(プラス)という状態があればお互い引き合うわけです。そうやって原子同士がくっついている結合の形、これをイオン結合と呼びます。じつは、電池は原子のイオン結合を利用して電気を生み出す仕組みなのです。

 

放電の仕組み

 電池は大きく言うと2つの金属と電解液、電線の4つで構成されています。2つの金属は正極と負極に分かれ、電解液に浸かっていて、電線でもつながっています。電線の間にはスイッチや電流を使って仕事をさせる対象(電球など)があり、回路を構成しています。スイッチを入れて回路を閉じると、負極の金属に貯まった電子が電線を通って正極の金属へ移動します。電線を通る電子の移動が電流で、その電流を使って仕事をさせます。

 では、どうやって負極の金属に電子を貯めるのかというと、電解液で負極の金属を溶かすのです。金属の原子同士は電子を共有して結合していますが、電解液によってその共有が解かれます。電解液に溶け出した金属原子は電子を失った状態(プラスイオン)で、プラスの性質になっています。逆に、負極の金属に残った金属原子は電子を余計に持っている状態(マイナスイオン)で、マイナスの性質になっています。原子としてはマイナスとプラスのバランスを取りたいので(イオン結合)、電子は回路が閉じるのを今か今かと待ち構えています。回路が閉じると、待ってましたとばかりに負極の金属に留まっていた電子たちが電線を通って正極に流れ込み、電解液中のプラスイオン化した原子と結合します。こうやって電線に電流が流れるのです。これが電池の放電のメカニズムです。

 ちなみに、この仕組みからお分りでしょうが、片方の金属はなるべく電解液に溶けるようなものを選び、もう片方の金属は逆になるべく電解液に溶けないようなものを選ぶ必要があります。ここに素材選びの肝があります。この溶けやすさと溶けにくさの差が大きいほど、負極に正極へ流れ込む電子が多く貯まるということなので、電圧(電子が飛び出す勢い)につながります。

 

充電の仕組み

 充電の仕組みは前述した放電の仕組みの真逆。正極から負極へ電子を流すことで、負極へ電子を貯めます(充電)。これはつまり、電解液に溶けにくい金属(正極)を電解液に溶かすわけですので、エネルギーが必要になります。このエネルギーがコンセントや充電器からやってくる電気です。電気の力を使って無理矢理逆向きに電子を流すわけですね。

 

 いかがでしょうか。電池の仕組みがご理解いただければ幸いです。後半はちょっと小難しい話になっていまったので、前半だけでも楽しんでいただけたら嬉しいです。電池は僕らの生活の至るところで活躍していますので、しっかり仕組みを理解して現代文明を享受しようではありませんか。