イーロン・マスクのすすめ

最高の男、イーロン・マスクについてのブログ

イーロン・マスクが燃料電池車をバカにする理由

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燃料電池車と電気自動車の比較。イーロン・マスク電気自動車のほうが優れていると結論づけています。

水素はエネルギー貯蔵のメカニズムです。エネルギー源ではありません。水素はどこからか取りださなければいけません。水から取りだすとすれば、H2Oを分解するわけです。電気分解はエネルギープロセスとしてきわめて効率が悪い。水を分解して、水素を取りだし、酸素を捨てて、水素を非常に高圧の状態に置いて(もしくは液化)自動車に乗せ燃料電池を稼働させる。太陽光パネルからバッテリーパックを直接充電する場合とくらべて効率性はおよそ半分です。ひどいものだ。なぜそんなことをするんでしょう。わけがわかりません。
 
イーロン・マスク燃料電池車をバカげていると言い放ちます。そこで、今回はイーロン・マスクがなぜ燃料電池車を批判しているのか考えてみたいと思います。
 

燃料電池車と電気自動車

燃料電池車は水素をつかいます。空気中の酸素を外から取りこんで、水素と反応させることで電気を発生させます。その電気をつかって走る自動車です。
 
電気自動車は送電線からやってくる電気をつかいます。送電線からくる電気をバッテリーに貯めておいて、その電気をつかって走る自動車です。
 
つまり、どちらも最終的には電気をつかいます。化石燃料を(直接は)つかわず、温室効果ガスはだしません。ガソリン車とは違いますね。
 
現在、化石燃料をつかっている発電所が多いです。まだ発電のところがクリーンではない。しかし、将来的には再生可能な発電にシフトしていくでしょう。そうなれば、燃料電池車も電気自動車も完全に化石燃料フリーです。
 
化石燃料には枯渇・地球温暖化のリスクがあるので、燃料電池車と電気自動車が注目されているわけですね。
 
競合する技術である燃料電池車と電気自動車。どちらが優れているのでしょう。
 

水素の特徴

燃料電池車がつかうのは水素。なので、水素の特徴をみてみましょう。
 
水素をつくる) 水素はそのままのかたちでは(地球上に)存在していません。なので、水素をつくる必要があります。そのために、水を電気分解します。水に電圧をかけて水素をとりだす。つまり、電気をつかって水素をつくるわけです。
 
※現在のところ主流なのは化石燃料天然ガス)からつくる方法です。しかし、これだと化石燃料をつかうので今回は無視します。化石燃料依存から脱却するには水の電気分解が(いまのところ)ベストです。
 
水素を運ぶ) とりだした水素を自動車まで運ばなければなりません。水素を運ぶには圧縮や液化させる必要があります。
 
つまり、電気で水素をつくり、運んだ水素から電気をとりだすわけです。
 
電気自動車が送電線をつうじて手に入れる電気を、燃料電池車は水素を経由して入手している。水素を経由することによって発生する電気エネルギーのロスをイーロン・マスクは批判しています。
 
彼は太陽光パネルを持ちだしていますがちょっとそれは置いといて、一般的な送電線と比較してみましょう。
 

送電線との比較

発電所でつくられる電気がスタート。自動車を走らせることがゴールです。燃料電池車も電気自動車もスタートとゴールは同じ。電気を水素にして運ぶor送電線で送るという違いだけ。
 
つまり、どちらが発電所でつくった電気をロスなく自動車を走らせることにつかえるのか。ここをみればいいんです。一目瞭然の図があるのでご覧ください。
 

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Why a hydrogen economy doesn't make sense

※リンク先の図を和訳したものです
 
明確ですね。スタートの電気を100kWhとして、燃料電池車がつかえるのは19kWh~23kWh。一方、電気自動車がつかえるのは69kWhです。
 
水素の圧縮・液化どちらのケースでも、燃料電池車は電気自動車よりも電気エネルギーのロスが大きいということです。
 
つまり、電気自動車のほうがロスなく効率的に電気エネルギーをつかえます。
 

結論

燃料電池車か電気自動車のどちらが優れているか。考えることはいろいろあるでしょう。インフラ整備コストや充電時間の長さなど、現時点で燃料電池車と電気自動車それぞれにメリット・デメリットがあります。
 
そういうときはゴールから考えるとわかりやすい。水素ステーションなどのインフラ整備が完成した。電気自動車の充電時間が短縮した。双方の現在の問題点が改善された社会がゴールです。
 
そのような未来でも、電気エネルギーロスの差は縮まりません。水素の物理的性質によるものだからです。
 
ということで、ゴール到達時点でどうしようもない電気エネルギーのロスの差があります。なぜあえてロスの大きな水素をつかう社会を目指すのかわからない。イーロン・マスク燃料電池車をバカげていると批判するのはこのためです。辛辣な言葉ですが、本質的な意見ではないでしょうか。
 
 
 

参考

次は電気飛行機!?イーロン・マスクが思い描く飛行機の未来

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イーロン・マスク製の電気飛行機が誕生するかもしれません。ハイパーループのポッドコンテスト授賞式でイーロン・マスクが電気飛行機について語った内容が世間を騒がせています。
 
「電気飛行機の会社というアイデアを気に入っています。とてもクールで超音速の垂直離着陸可能な電気飛行機は実現可能だと思います。とても楽しいでしょうね。頭のなかには設計図もあるんです」とイーロン・マスク
 
火星移住を見据えたスペースXのロケット。化石燃料依存からの脱却を目指したテスラ電気自動車とバッテリー。そして新しい交通機関であるハイパーループ。イーロン・マスクは壮大なプロジェクトを複数すすめていますが、電気飛行機が次のプロジェクトになるかもしれないのです。スペースXやテスラで途方もないアイデアを実際に製品化している実績を考えると、イーロン・マスクの電気飛行機には期待してしまいますね。
 
じつは電気飛行機の話題がでたのは今回がはじめてではありません。昨年のインタビューでもイーロン・マスクは「電気飛行機の垂直離着陸について少し考えてみています」と答えていました。さらに「(電気飛行機)に取り組むのはとても魅力的です」という発言も飛びだしていました。
 
ちなみに、イーロン・マスクのアイデアは垂直離着陸可能な電気飛行機です。垂直離着陸可能で滑走路は不要。電気飛行機なので化石燃料は消費しません。かなり魅力的な飛行機です。
 
じつは電気飛行機というアイデア自体は珍しいものではありません。すでにエアバスイージージェット、XTI Aircraftといった会社が電気飛行機のプロジェクトに着手しています。
 
ただ、電気飛行機の実現にはより軽くより空気抵抗を受けない機体が必要になるので、エンジニアリングの発展を可能にするハイレベルな投資やそれ相応の時間はかかるでしょう。しかし、ハイパーループでやっているようなイーロン・マスクの後押しがあれば電気飛行機の実現はそう遠くないかもしれません。
 
一点付け加えておくべきなのは、そうは言ってもイーロン・マスクが一番おすすめしているのは地下トンネルの建設だということです。「ただ地下に穴をあけるだけです。そんなに難しいことじゃない。都市にトンネルがあれば大きく渋滞を解消できるでしょう。」とのこと。「30層のトンネルで人口が密集する都市の渋滞を完璧になくせると思います。なので、トンネルを強くおすすめしますね。」だそうです。イーロン・マスクは空飛ぶ車について聞かれたときもトンネルを掘ったほうが現実的・効率的と言っていましたね。
 
地下トンネルで渋滞がなくなり、自動運転の電気自動車が街を行き交い、都市間の移動はハイパーループか電気飛行機。それらの動力源である電気は太陽光パネルで発電し、安価な大容量バッテリーでインフラを支える。さらには地球・火星の惑星間移動も可能に。イーロン・マスクがインストールしようと思い描くシステムは壮大過ぎます。
 
 

参考

スペースXが海上への着陸を必要とする理由 ~人工衛星の軌道投入~

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スペースXのロケット着陸技術は2種類。陸上(打ち上げ場)への着陸と、海上(海に浮かべた船)への着陸です。2015年12月、スペースXは陸上へのロケット着陸に成功しました。歴史に残る偉業です。一方、度重なる挑戦にもかかわらず、まだスペースXは海上への着陸に成功していません。海上へ着陸することのほうが難しいんですね。
 
海に浮かぶ船(ドローンシップ)は不安定です。波に揺られていますし、回転していて、狭い。陸にくらべて状況が変わりやすく、わずかなエラーも許されません。このような難易度の高い海上への着陸に、なぜスペースXは挑戦しつづけるのでしょうか。イーロン・マスクはこう答えます。
 
訳)船上への着陸は「柔軟な対応のため」や「燃料コストをおさえるため」ではない。単純に性能的に打ち上げ場(陸上)へ戻ってくることができないからだ。
 
訳)前にも言ったように、速度が求められるミッションのために船上への着陸が必要ということ。軌道(投入)では、高度や距離にそこまでの意味はない。すべては速度なのだ。
 
まとめると以下ですね。
1)ミッションによってロケットに求められる速度が違う
2)速度が求められるミッションでは(性能的に)陸上への着陸ができない
 
人工衛星の軌道投入やロケットについて詳しい人ならイーロン・マスクの答えをすんなり受け入れることができるでしょう。そういう人はここで読むのをやめてもらってOKです。ここから先はイーロン・マスクの答えがいまいち納得できない人にむけた説明です。できるだけわかりやすくまとめてみたので、イーロン・マスクの答えにピンときてない人はぜひ読んでみてください。
 

人工衛星の高度(軌道)

 
イーロン・マスクの答えを理解するには人工衛星の話からスタートしないといけません。世界初の人工衛星は1957年に誕生したスプートニク1号。それ以来、世界中の通信や気象予報、テレビ、ナビ、航空写真など様々な分野で人工衛星が役立っています。
 
人工衛星はとても高いところにいて、地球の周りをぐるぐるまわっています。この人工衛星が地球を周回するルートを軌道と言います。軌道にはいくつか種類があって、高さ(高度)によって区別されます。そして、人工衛星を目的の軌道に投入することが、人工衛星ペイロード(積載物)として搭載したロケットの役割です。
 
現在、1300機近くの人工衛星が活動していますが、その多く(3分の2くらい)は低軌道と呼ばれる軌道上にいます。低軌道は高度160キロから2000キロまで。じつはこれは意外と低いんです。地球の半径が6371キロなので、低軌道上の人工衛星なんかは遠くから見るとほとんど地球の表面すれすれをまわっている感じ。こちらを見てもらうとわかりやすいですね。
低軌道:

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で、残り(3分の1)のほとんどの人工衛星静止軌道上にあります。静止軌道の高度は3万5786キロ。低軌道とくらべるとものすごく高いところにいます。では、なぜ人工衛星をこんなに高いところまで持っていく必要があるのでしょうか。
 
じつは、人工衛星が地球をまわる速度は軌道によって違ってきます(人工衛星の速度についてはあとで詳しくお話します)。そして、静止軌道上の人工衛星は24時間で地球の周りを一周するんです。地球の自転周期と一致してるんですね。人工衛星が地球の自転と同じペースでまわっているので、地球のある一点を継続的にカバーできます。なので、テレビなどにつかわれる人工衛星静止軌道に投入しなければいけません。人工衛星は用途によってどの軌道に投入されるのか決まるわけです。

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低軌道と静止軌道の中間が中軌道と呼ばれます。中軌道上の人工衛星は多くないですが、高度約2万キロあたりにGPS衛星なんかがいます。
 
ところで、最低でも低軌道以上の高度が必要な理由は何でしょうか。これは地球の大気などが関係してきます。わかりやすいように極端な例で考えてみましょう。凹凸のない完璧に滑らでしかも大気もない星があったとします。この場合、理論上、地表のすぐ上でも人工衛星の軌道投入が可能です。なぜなら、抵抗もないし、人工衛星を邪魔するものがないからです。ニュートンの第一法則のとおり、抵抗がない状況だと人工衛星は永遠にその星の周りをまわりつづけることができます。
 
もちろん地球はそんな星ではありません。地球には分厚い大気がありますし、地表には山や谷などの障害物があります。人工衛星は大気によって抵抗をうけ、減速して地表へ落ちていきます。実際、低高度(高度800キロ以下)の衛星は上層大気の抵抗によって減速されてしまって、だんだん高度が下がっていきます。人工衛星が大気による抵抗をうけないように、ある程度の高度が要求されるわけです。
 
人工衛星の高度の話は以上です。人工衛星は減速すると落下する。言い換えると、人工衛星が高度を維持しつづける(軌道上にとどまりつづける)ためには速度が必要です。
 

人工衛星の速度

 
重力とは不思議なもので、どんなに小さな物体の小さな重力でも宇宙全体に影響を与えています。なかなか直感的にわかりづらいと思いますが、一度イメージとしてつかめれば理解しやすいです。宇宙をさらさらして滑りやすい(抵抗ゼロの)布だと考えてみましょう。四隅はピンと張られています。そこに物を置くとどうなるでしょうか。布が凹みますね。そして、いくつかの凹みがある布の上にビー玉を置いたとしましょう。ビー玉はさらさらとした布の上を滑って凹みのどれかに吸い込まれていきます。これが重力のイメージです。

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布の凹みは、凹みをつくっている物に近いほど深くなります。逆に、物から離れれば浅くなります。じょうご状です。深いとビー玉は勢いよく落ちていきますし、浅いとゆっくり落ちます。つまり、重力は物体の近くほど強く、遠くなれば弱くなるってことです。ただし、どんなに離れても重力がゼロになることはありません。限りなく弱くなっていくだけ。僅かな凹みも布全体に影響を与えています。もし宇宙空間に2つの物体しか存在しなかったら、それらが何億光年と離れていてもいずれお互いくっついてしまうということです。そして、地球という物体にくっついてしまうことを、地球に落下すると言います。
 
人工衛星の話に移りますが、人工衛星は軌道上にとどまる(地球に落っこちない)必要がありますね。そのためにはどうしたらいいのでしょうか。
 
ルーレットをまわる球のように布の凹みをくるくるまわるビー玉を想像してみてください。十分な速度でまわっていれば、ビー玉が中心にむかって落ちていくことはありません。じつは、これが人工衛星が地球に落っこちてこない仕組みです。
 
ここまで見てきたとおり、いくら地球と離れても(高度を上げても)地球の重力からは逃れられませんので、距離よりも速度がポイントになるんですね。これをイーロン・マスクは「軌道(投入)では、高度や距離にそこまでの意味はない。すべては速度なのだ。」と言っていたわけです。
 
重要なところなので、もう少し詳しく見てみましょう。たとえば、ピッチャーが投げたボールは放物線(カーブ)を描いて落ちていきます。

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地球は球体なので地表もカーブしていますが、それよりもボールのカーブのほうが急なので、ボールは地表にくっつきます(落下します)。
 
では、どんどん球速を上げていくとどうなるでしょうか。ボールのカーブは球速によって変わるので、いずれこうなります。

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拡大するとさきほどの図ですね。

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これは、ボールは落下している(重力の影響をうけている)んですが、地球の周りをくるくるまわって永遠に地表に到達しない状態(人工衛星と同じ状態)です。イメージはつかめたでしょうか。
 
ようするに、人工衛星を軌道投入するには、十分な速度まで加速する必要があるということです。そして、この役割を担うのがロケットです。
 
次に、軌道投入にはどのくらいの速度が必要なのか見てみましょう。
 
たとえば、国際宇宙ステーションISS)は高度約400キロくらいの低軌道上にいます。重力は離れていくにしたがって弱くなりますが、高度約400キロくらいではまだ地表のおよそ90%もの重力がかかっています。この重力に対抗するためにISSは時速約28,000キロで移動しています。つまり、ISSの放物線が地球と同じカーブを描くために必要な速度が時速約28,000キロだということです。
 
時速約28,000キロ。これってとんでもないスピードです。ライフル弾の初速の倍以上のスピードで、地球を90分ほどで一周します。このスピードで浜辺から海へむけてボールを投げたら、水平線へビューンと飛んでいき、わずか0.5秒で視界から消えてしまいます。低軌道投入に求められる速度のすさまじさがわかりますね。
 

ロケットの性能

 
人工衛星(に限らずですが)の軌道投入にはロケットがつかわれます。なので、ロケットに求められるのはもちろん速度。ほとんどの二段式ロケットは、高度約100キロ(プラスマイナス20キロほど)で切り離しをおこないますので、重視すべきロケットの性能は切り離し(高度約100キロ)までにどのくらい加速できるのかです。とくに再使用ロケットのブースターの価値を見極めるにはここがポイントとなります。
 
切り離しまでのロケットの加速性能はペイロードを高速で軌道に投げ込む性能と言えます。いわばピッチャーの球速みたいなもの。ペイロードを目的の高度まで持っていくこともロケットの役割ですが、ピッチャーの例えで言うと、これはキャッチャーのところまでノーバウンドでボールを投げる能力と言えます。この能力があってようやくピッチャーはマウンドに立てるのであって、いわばスタートライン。本当の勝負はそこからはじまるのです。
 
ここでスペースXのファルコン9ロケットの性能を見てみましょう。じつは、陸上への着陸の場合と海上への着陸の場合とで、ファルコン9の加速性能に違いがでます。陸上への着陸の場合、ファルコン9は125トンを時速5000キロまで加速させる性能をもっていますが、海上への着陸の場合は125トンを時速8000キロまで加速させることができるのです。つまり、海上への着陸の場合、加速性能が優れたロケットでペイロードを軌道投入できるわけです。
 
この違いがどうして生まれるのかですが、ポイントはロケットが戻ってこないといけないのかどうかです。
陸上への着陸(切り離しのあとロケットが戻ってくる):

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海上への着陸(切り離しのあとロケットは戻ってこない):

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打ち上げ場からものすごいスピードで離れていくロケットを戻すのは大変です。窒素をつかった姿勢制御スラスターでUターンし、打ち上げ場へむけてエンジン点火。大気圏再突入のあとにエンジンを正しい方向へむけて着陸体制に移る。燃料は液体なので、これらの操作中にかかる遠心力を考慮しなければいけません。燃料を正しいポジションにとどめるための隔壁や内部ホールディングタンクといったシステムが求められます。それに、極超音速から亜音速への減速でもしっかり機能する3軸操縦翼面が必要になります。
 
物体を加速させるには大きなエネルギーが必要です。時速0キロから時速2000キロまで加速させるには、時速0キロから時速1000キロへの加速の(2倍ではなく)4倍のエネルギーが求められます。加速性能をあげるのはそれだけ大変なことなんです。なので、陸上まで戻ってくるために様々な機構を備えるロケットが加速性能で大きく劣ってしまうのは仕方ない。つまり、海上へ着陸するファルコン9では対応できるミッションも、陸上へ着陸するファルコン9だと性能的に対応できない場合があるということです。
 
人工衛星の高度、速度そしてロケットの性能について見てきました。1)ミッションによってロケットに求められる速度が違うので2)速度が求められるミッションでは(性能的に)陸上への着陸ができない。いかがでしょう。冒頭のイーロン・マスクの答えに納得いただけるでしょうか。
 
 

参考

waitbutwhy.com

2016年、スペースXの最初の打ち上げが成功。しかし、ロケットの着陸には失敗。

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スペースXが2016年の最初の打ち上げに成功しました。ファルコン9ロケット21号機の打ち上げで、ペイロードは政府の人工衛星。海水位をモニターするJason-3衛星と呼ばれる政府の人工衛星です。
 
メインのミッションを成功させたスペースXですが、残念ながらロケットの着陸には失敗してしまいました。昨年12月のファルコン9ロケット20号機で、スペースXは逆噴射によるロケットの垂直着陸という歴史的偉業を成し遂げたばかり。連続での快挙とはいきませんでした。
 
動画はこちら。本当にあと一歩です。惜しい。
 
陸上への着陸に成功した20号機とは異なり、今回の21号機では海上に浮かべたドローンシップ(船)への着陸が試みられました。じつは陸上への着陸と船上への着陸では難易度が違います。イーロン・マスクは「船上への着陸のほうが間違いなく難しい」と言います。高速で移動しているただでさえ不安定なロケットを、「波に揺られ」て「回転する」不安定な場所へ着陸させるのです。安定している陸上への着陸よりも、船上への着陸のほうが難しいのは当たり前ですね。

 
スペースXは難易度の高い船上への着陸に挑戦しつづけています。1回目の挑戦は1年前。着陸の際、作動液が切れてしまってロケットは粉々になりました。その1ヶ月後のチャレンジは海の状況が芳しくなく見送りに。そして、昨年4月の3回目の挑戦では着陸の衝撃に耐えきれずロケットが横滑りして倒れてしまいました。
 
4回目の挑戦となった今回。「タッチダウン速度は良好」だったそうですが、着陸用の脚が正しく動作せずにロケットが倒れてしまいました。イーロン・マスクによると、陸上への着陸であっても「おそらく」同じ結果になっただろうとのこと。陸上への着陸を成功させたあとだけに悔しい結果ですね。
 
ところで、なぜスペースXは難易度の高い船上へのロケット着陸に挑戦しつづけるのでしょうか。世間では「安全性のため」や「柔軟な対応ができるように」、または「燃料コストをおさえるため」と言われているようですが、イーロン・マスクによると理由は別にあるようです。
訳)船上への着陸は「柔軟な対応のため」や「燃料コストをおさえるため」ではない。単純に物理的に打ち上げ場(陸上)へ戻ってくることができないからだ。

 

(ドローンシップ)をつかえば帰還するロケットの横移動の速度をゼロに減速させる必要がなくなるとイーロン・マスクは言います。つまり、より速い速度でロケットを打ち上げることができるとのこと。 

訳)前にも言ったように、速度が求められるミッションのために船上への着陸が必要ということ。軌道(への到達)にたいして、高度や距離にそこまでの意味はない。すべては速度なのだ。

 

難易度の高い船上への着陸を目指すのは、それが必要になる(ロケットの速度が求められる)ミッションがあるからなんですね。

 

さて、イーロン・マスクは今回の失敗にたいして「少なくとも今回は大きな塊が残った」として「次の船上着陸へは楽観的だ」と言っています。

 

前回の20号機の着陸成功で余裕が生まれているような気がしますね。先日、スペースXは20号機のエンジンの再点火にも成功しました。どうやら再使用にも耐えられそうだということがわかったのです(ただ、イーロン・マスクは20号機のエンジンを使って打ち上げをおこなうつもりはなく記念としてとっておくと言っています)。今回は着陸に失敗してしまいましたが、スペースXは確実に再使用ロケットの実現に近づいています。
 
 

参考

伝記の著者が語るイーロン・マスクの4つの能力

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イーロン・マスクの伝記の著者であるアシュリー・バンスが、Quora(Q&Aサイト)でユーザーから寄せられた質問に回答しました。なかでも印象的だったのはイーロン・マスクの能力に言及した回答。イーロン・マスクの能力を間近で見たアシュリー・バンスならではの回答です。彼から語られたイーロン・マスクの能力を、4つの能力に分けてご紹介したいと思います。
 
 
1.問題解決能力) アシュリー・バンスは「イーロン・マスクの一日はプロジェクトの進行を妨げている重要な部分(クリティカルパス)に取り組むことからはじまる」と語ります。それらの取り組みはイーロン・マスク個人でおこなわれるものと、プロジェクトチームへの適切な支援という形でおこなわれるものとに分かれます。そして、その両方の取り組みにおいて、イーロン・マスクの能力はアシュリー・バンスを驚かせるほど高いそうです。「私が驚いたのは、彼の効率的な問題解決能力とスタッフの力を引きだす能力」とのこと。
 
2.耐久能力) アシュリー・バンスはイーロン・マスクのトップスキルを「プレッシャーへの対処」と述べます。2008年、世界経済が危機的な状況に陥った際、イーロン・マスクの会社も試練の時を迎えていました。テスラは破産寸前。スペースXはロケットの打ち上げで失敗つづきでした。さらに、プライベートでは離婚まで経験したイーロン・マスク。このような絶望的状況を切り抜け、彼はテスラとスペースXに現在の輝かしい成功をもたらしました。極度のプレッシャーに耐える能力が証明されていますね。
イーロン・マスクはアシュリー・バンスとのインタビューに疲れ果ててやってくることがありました。その表情は「まるでマラソンを走り終えたあとのように見えた」にもかかわらず、「しかし、彼は深夜まで及ぶインタビューに何時間も応えつづけた。そして、明晰な思考を失うことは一度もなかった」とアシュリー・バンスは語ります。プレッシャーに耐え、疲労に耐え、それでも高い能力を維持するイーロン・マスク。彼の耐久能力の高さがうかがえる話でした。
 
3.学習能力) イーロン・マスクはきわめて短い時間で専門家に近いレベルの知識を身につけることができるとアシュリー・バンスは述べます。彼によると、イーロン・マスクは「自動車やロケットをつくるうえで、それに相応しい学歴を持っているわけではない」ので「友達からもらった教科書を読み、専門家や会社のスタッフから話を聞く」ことで専門知識を学習していったそうです。アシュリー・バンスは、イーロン・マスクのことを「フォン・ブラウンのような航空宇宙工学的天才ではない」(スペシャリストではない)が、ロケットの設計に実際に関与できるほどの「エキスパート・ジェネラリスト」だと表現します。
 
4.統合能力) イーロン・マスクは様々な技術・知識を統合して新しいものを生みだす能力に長けています。アシュリー・バンスはイーロン・マスクを「この時代のもっとも優れたインテグレーター」と評し、「シリコン・バレーの商慣習とスマートソフトウェア、そしてコンシューマーグレードな電子機器を持ち込むことで、イーロン・マスク自動車産業、宇宙産業、エネルギー産業を近代化させた」と語ります。複雑な情報を処理して幅広い分野へ適用していく能力こそ、イーロン・マスクのもっとも優れたスキルだとアシュリー・バンスは述べます。
 
 
アシュリー・バンスはイーロン・マスクの伝記を書くことで自分を見つめなおす機会を得たそうです。「イーロン・マスクを観察すると、自分がどのように時間を使っているのか、満足のいくレベルに到達できているのか考えさせられる」とのこと。そして、(イーロン・マスクの伝記の執筆を経て)「私は自分が本当に追求したいことに集中し、それにもっとエネルギーと情熱を注ぐことを決めた」と語ります。イーロン・マスクの能力を目の当たりにし、彼から影響もうけたアシュリー・バンスの率直な回答が興味深いですね。
 
 
 

参考